労組の団交よりも土建屋の陳情。

署名開始を前に、東京都議会へ赴く。一人会派「自治市民'93」の福士敬子議員*1に協力要請するためだ。福士議員は前回の健全育成条例改悪*2の際、唯一反対票を投じた希有な議員である。さすが都議20年、生活者ネットと袂を分かっても市民自治にこだわる女丈夫は、僕らを目の前に「いや〜、マンガとかってホント、わっかんないのよねぇ〜、ごめんね〜」といいつつ、実に的確なアドバイスをしてくれた。

福士議員の説明では、都議会では「請願」と「陳情」を厳密に差別化して審議しない傾向にあるという。「請願」が紹介議員を必要とするのに対して、「陳情」はいつでも、一人でもできる。福士議員は、署名を「陳情」にして、自民や民主、公明のオジサン議員のところに持ち込み回るべきだという。「ツテがないのですが…」というと、「そんなの、議員リスト使って片っ端から行けばいいよ」と。山口弁護士が提示した「コンテンツ産業育成への阻害要因」という切り口にも「それこそ、自民や民主の議員さんにはイケるんじゃない?」とのお答え。

「要はね、阻止できればいいんだから。あたしん所や、例えば共産党とか、そういう所が仮に『請願の紹介』を引き受けてしまったら、それだけで『色つき』に見られて一蹴されちゃうのよ。うまくやらなきゃ。」……さすが、というか、驚きだった。この人は、「勝つために何をすればよいか」を知っている。自分の置かれている状況も率直に理解している。そうなんだ。この運動に首を突っ込んだ当初、幾人かと同じ会話をした。「労組の大衆団交なんて、今じゃ屁の突っ張りにもならん。俺たちマンガに携わる者ができることは、土建屋が這いつくばって利権を確保するための陳情のほうにはるかに近い。」

僕らの運動は、いささか政治闘争にシフトしすぎているきらいがある。作品や文筆による抵抗、カウンターカルチャーとしての論陣の整備、相互の交流、業界全体との均衡といった活動より、切迫した政治状況に即応する臨戦態勢の維持に汲々としていた。もう一度、決して負けられない戦いだからこそ、図太いネゴシエーション能力を磨かねばならないと思った。


*1:http://www.asahi-net.or.jp/~pq2y-fks/index.html

*2:「区分陳列の義務化」とともに、鶴見済の「完全自殺マニュアル」をピンポイントで狙った不健全図書基準の改悪が行われた。健全育成条例の改悪に際しては毎回、「ほぼ全会一致」のなかで、偏屈な?一人会派が抵抗する。10年前は「都政を革新する会」の長谷川エイケンだった(w