自営業者としての漫画家。

johanne2004-08-30

竹熊健太郎さんの「マンガ原稿料はなぜ安いのか?*1」(ISBN:4872574206)をこの期に及んで読み始める。出版業界の抱える悪弊といった話は、佐野眞一さんの「だれが『本』を殺すのか*2」(ISBN:4833417162)という名著もありますが、マンガ業界に限っては、佐野さんもびっくりするような仕組みや慣習が生きています。実際、僕がデビューした10年前なんて、単行本の契約書なんて存在すら前もって聞かされませんでした。価格も部数も口約束で(幸い反故にされた経験はありませんが)、今でも雑誌掲載時の稿料や原稿管理は大半がそうです。担当編集と作家の「信頼関係」、あるいは出版社の「信用保証」がすべて、という危うい雇用関係が生み出したのが「さくら出版原稿流出事件*3」だったのですね。これを許してきたのは漫画家、出版社双方の怠慢でしょうし、最大の根拠はマンガの「成長神話」を誰も疑わなかった事にあります。果たして「マンガは売れなくなった」「マンガは終わった」発言が、嘆息混じりに当事者から語られる状況って、何かしっくりこないのですが。

かくいう僕も、自身の怠惰と巡り合わせの悪さの結果(がほとんどですが、出版不況や表現規制の影響もちょこっとあったりして)、厳しいリストラを迫られています。「夜羽音終わったな(ゲラ」なんて嘲りが、ホントに洒落になってません。

そこで、今回の「書店営業ドサ回り大作戦」の発動です。版元の大都社さんの承諾のもと、ようやく実行に移ります。用意しているのは直筆のPOPと、いくばくかのサイン色紙と、掲示用のカードクリップ。これを携えて一軒ずつ書店をめぐるという愚直の極みともいう「営業」です。恥ずかしいとかみっともないとか落ちぶれたとか言ってる場合でなく。実際、活字業界ではこの手の営業は珍しくないそうです。「サイン会」や「原画展」くらいしか自力で営業することが叶わないなら、僕みたいな微妙なポジションの漫画家には厳しいわけで。この程度の労力は惜しみません。結果が芳しくなくても、データが残るという効果は期待できる。やってみる価値はあるだろう、と考えた次第で。「漫画家」の視点から「自営業者」の視点に移して、「著作」が「商品」となっている現場と向き合ってみる…そう考えると、なんだか面白そう。

もし、POPを掲示してやってもいいという奇特な書店さんがいらっしゃったら、是非ともフッタのアドレス宛にご一報下さい。近郊なら馳せ参じますし、遠方でも郵送させていただきます。