ひでぇ現実・1

近所の贔屓の書店に久々に立ち寄る。ここは都内でも有数の「サブカル魔窟」で、冷やかしで入ったつもりが気がつけば珍書奇書を抱えて帰る羽目になる。田中美津ちくま新書会田誠の画集、いましろたかしの復刻本、ロビン西の「モンキー*1」が掲載された「コミックアレ!」に赤瀬川原平の「櫻画報・文庫版」、毎日新聞社の「20世紀の記憶」シリーズetc...新宿まで遠征して紀伊国屋模索舎に通いつめるまでもなく、引きこもり漫画家が良書と出会える希有な本屋。今月号のサイゾーを買おうか思案していると、ふいに店長のN氏に呼び止められる。

「ゲンダ*2さん、ウチの昼間の店員、全員1月いっぱいで辞めますから。」

きょとん。……え、……リストラ?

「経営方針が変わってね、ウチ、フツーの本屋になるそうですから。」愕然。

初めての単行本「青年の性的闘争」を無謀にも「取り扱ってくれ」とN氏に直談判したのがたぶん十年前。一介の街の本屋が、零細出版社の無名の新人の初めてのエロマンガを、100冊以上売りさばいてくれた。僕がいまだにマンガで飯が食えているのは、この店のおかげといっても差し支えない。

「だったら、同じこの街で、小さくていいから、続けてくれませんか?」それは本心からの言葉。断じて世辞でなく。

「いろんな可能性はあるよ。」N氏はニヤリと笑顔を返してくれた。期待しよう、この店の、イカす書店員たちに。

苛烈な現実。「おしゃれな」この街は古着屋だけが増殖する一方で、安価な輸入食材店は激減した。夕食のタイカレーに入れる粉末ココナッツミルクは隣駅の高級スーパーまで戻らなければ見つからなかった。そうか。お前らは例え赤貧であっても、タイカレーはエスニック料理店で食すか。貴様のヴィンテージジーンズにシミよ付け、と呪う。俺の501はケツに当て布してるって。

*1:この名作を収録した単行本はあるのか。詳細求む。

*2:僕のデビュー当時のペンネームが「玄田生」。さすがにこの名で呼ばれる機会も少なくなったが。単純な戯名だが、意外に気づかないのが楽しかった。