いまさら吉本隆明。

くじけそうになったとき、手にする一冊の詩集がある。吉本隆明の初期作品。僕にとっての吉本隆明は思想家ではなく、詩人なのだ。「共同幻想論」よりも、「擬制の終焉」よりも、そのことばは胸に響く。

ぼくはでてゆく

冬の圧力の真むかうへ

ひとりつきりでは耐えられないから
たくさんのひとと手をつなぐといふのは嘘だから

ひとりつきりで抗争できないから
たくさんのひとと手をつなぐといふのは卑怯だから

ぼくはでてゆく

すべての時刻がむかうかはに加担しても
ぼくたちがしはらつたものを
ずつと以前のぶんまでとりかへすために
すでにいらなくなつたものはそれを思ひしらせるために

ちひさなやさしい群よ

みんなは思ひ出のひとつひとつだ

ぼくはでてゆく

嫌悪のひとつひとつに出遇ふために

ぼくはでてゆく

無数の敵のどまん中へ

ぼくは疲れてゐる

がぼくの瞋りは無尽蔵だ

(「ちひさな群への挨拶」より抜粋)

この詩集に出会うまで、吉本隆明を敬遠していた。なんか難しそうだったから。でも今は大好き。柄谷行人も、「探究1」を苦労して読むまで苦手だったし。食わず嫌いはいけません。なんか、時代が一回りして、もう一度吉本隆明のことばが輝きだしている気がする。少なくとも僕の中では。